大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)781号 判決

上告人 餓塚儀一

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士貝塚徳之助の上告理由第一点ないし第三点について。

原判決の引用する第一審判決はその挙示の証拠により旧食糧配給公団藷類茨城県事務所は農林省食糧管理局茨城食糧事務所長の指示に基いて本件藷類を売渡したものであることを認定しており、右挙示の証拠に照合すれば右認定は首肯できる(原審が右認定について所論資料により心証を形成したとの事跡は記録上認むべくもない)。そして右取引については食糧管理の為めの行政取締上所論購入券を必要とするのではあるが、食糧管理法制定の趣意(この点は原判決説示のとおりである)に鑑みて考うれば、右認定のように本件藷類の売置取引が国家機関の指示に基いてなされたものである以上は右取引について所論購入券に所論の脱漏あつたとしても、その一事の故を以て右取引の民法上の効力を否定してこれを無効とすべきものでないと解するを相当とする。従つて同趣旨に出でた原判決の判断は正当である(原判決は右のような取引について所論購入券が不必要なものだとは云つていない。)。

所論はひつきよう原判決を正解しないかあるいは原判決の示した法律判断と相容れない見解に立脚して原判決に所論の違法あるが如く主張するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判官 下飯坂潤夫 斎藤悠輔 入江俊郎 高木常七)

上告理由

第一点原判決は理由を付せないか又は甚だしき理由不備の不法あり。

一、原判決には上告人(原審の控訴人をいう。以下同じ)は原審に於て新たに抗弁を提出し「控訴人の買受けた生甘藷は一等品と称するもの八千七百七十二貫、二等品と称するもの五万三千五百三十一貫合計六万二千三百三貫である。その余の五十俵六十貫(六百貫の誤記と思う)の取引はなかつたものである。仮りにあつたとしても右五十俵の取引は購入通帳に記載なく購入通信帳に基づかない主要食糧の取引は違法であつて無効のものであるからその取引の代金は請求し得ないものである」さらに「本件の取引当時の食糧管理法第八条の三、第八条の四、第三十一条の三、第三十二条、同施行令第四条、昭和二十二年農林省令第百三号第十一条によれば農林大臣は主要食糧(当時甘藷は主要食糧であつた)について消費者又は販売業者対する配給割当を証明する所謂購入券を発給すべきもので配給公団又は販売業者は右購入券に引換又は購入券に必要なる事項を記入して販売業者又は消費者に売渡すべく又販売業者、消費者は同購入券と引換又は記入を受けなければ買受けることができず、これに違反した者は処罰せられ、その取引は無効である。本件取引での購入券中には必要な公団印捺印欄に何等の捺印がないから右購入券は無効のもので、従つて本件取引は購入券のない無効の取引で正当な売買によるものとして売掛代金の請求はこれをなし得ないものである」と抗弁したことを明かにし、その排斥の理由として「控訴人は右取引中五十俵六百貫については藷類澱粉購入通帳にその旨の記載なくその他の取引についても右通帳の公団捺印欄にその公団印の押捺がなく結局購入通帳(いわゆる購入券)のない食糧管理法第八条の四に違反する無効の取引であると主張し被控訴人は(被上告人)本件取引は食糧管理法第八条の四の購入通帳による取引でないから右抗争は理由がないと主張するので、この点について判断する」とし、「本件甘藷の取引が昭和二十三年十一月十八日から同年十二月二十日迄の間に行われたものであることは前示認定のとおりである。ところで控訴人主張の食糧管理法第八条の四は昭和二十四年六月二十五日法律第二百十八号食糧管理法の一部改正法律によつて同法第八条の二ない六として加入せられ同時に同法第二十二一条第一項中の改正として第八条の四第二項の購入通帳によらない取引についての罰則を新設したものである。そうであるから控訴人主張の藷類澱粉購入通帳はその主張の食糧管理法第八条の三に基いて発給されたものではないから、その主張の条項に違反して無効であるとの控訴人の抗弁は理由がない。もつとも本件取引当時においては食糧管理法施行規則第十一条、第十二条により甘藷の消費者への譲渡については、いわゆる購入券と引渡又はこれへの記入なくして行つてはならない旨を規定せられ、その違反については当時の食糧管理法第三十一条、第九条の違反として処罰の対象となつたものと解せられるけれども、食糧管理法は本来国民の食糧確保及び国民経済の安全を図るため食糧を管理しその需給及び価格を調整し配給の統制を行うことを目的としたもので、その所定の罰則も一つに右の統制のための取締規定である。本件取引はその売買の成立についての前示認定のとおり旧食糧配給公団藷類茨城県事務所がその頃農林省食糧管理局茨城食糧事務所長の指示に基いて控訴人に売渡したものであるから本件取引に使用された購入通帳に控訴人主張のような記載事項の脱漏があつたにしてもそれのみによつて右の取引を無効とすべきものではないと解するを相当とする。よつて控訴人の右抗弁は結局理由のないものである」と説示したが上告人は之を以て正当なる理由を附ものでないと思料する。

(イ) 成程食糧管理法第八条の四、第三十一条の三等の規定は昭和二十四年六月二十五日法律第二百十八号食糧管理法の、一部改正により加入せられたもので直に本件の取引に適用すべきものでない。けれども前記同法第八条の四等の条文を援用したのは上告人の誤解であるとしても当時施行中の食糧管理法によるも違反であつて本件の取引に対し適用されるべき法令がなかつたものでなく矢張り当時の食糧管理法違反である。且つ被上告人の前身たる旧食糧配給公団は昭和二十二年十二月三十日法律第二百四十七号食糧管理法の一部を改正する法律第十四条以下の規定により新設せられ、本件取引当時は既にその業務を行い居たもので同法第二十八条に「食糧配給公団ハ経済安定本部総務長官ノ定ムル食料配給ニ関スル基本計画ニ基キ農林大臣ノ定ムル実施計画ニ従ヒ其ノ監督ノ下ニ左ノ業務ヲ行フ、一、主要食糧ノ買入及ビ売渡」(二、三ハ略ス)とあり同法第三十一条の三には「左ノ場合ニ於テハ其ノ違反行為ヲ為シタル食糧配給公団ノ役員又ハ職員ハ五年以下ノ懲役又ハ五万円以下ノ罰金ニ処ス、一、第二十八条第一項ニ規定スル業務以外ノ業ヲ行ヒタル場合」(二以下略ス)等の規定あり、又当時施行中の昭和二十二年十二月三十日農林省令第百三号食糧管理法施行規則第十一条(此の条文以下は同年四月十七日同省令第三十四号改正により順次繰下げられ第二十五条となる)には農林大臣又ハ都道府県知事ハ主要食糧ヲ自己ノ生活上又ハ業務上消費者(以下消費者ト云フ)ニ対シ其ノ者カ配給公団カラ主要食糧ヲ購入スル為メ購入切符又ハ購入通帳(以下購入券トイフ)ヲ発給スル、第十二条(第二十六条トナル)、には食糧公団ハ購入券ニ記載スルトコロニ従ヒ且ツ之ヲ引キ換エ(引換エニ代ルベキ記入ヲ含ム。以下同シ)デナケレバ主要食糧ヲ売渡シテハナラナイ、消費者ハ購入券ニ記載スルトコロニ従ヒ且ツ之レト引換エナケレバ食糧配給公団カラ主要食糧ヲ買受ケテハナラナイ、第二項ノ規定ハ左ニ掲ゲタ場合ニハコレヲ適用シナイ、一、食糧配給公団ガ連合国駐屯軍ニ対シ連合軍司令官ノ実行スル調達要求書ニヨリ売渡ス場合、二、天災事変ニヨリヤムヲ得ナイ場合、第十三条(第二十七条トナル)には「購入券ハ之ヲ他人ニ譲リ渡シ又ハ他人カラ譲リ受ケテハナラナイ」等とありて非常に厳格なる規定で若し之れに徒わないときは双方共当然処罰されるべきもの、換言すれば食糧管理法施行規則の趣旨に依るも購入通帳の有無は売買成立の条件というべく若しその記載なく又は記載あるも無効のものなるにおいて、即ち購入券なき取引でその売買と称するものは当然無効と云うべく、他の名義に於てなら格別、売買としてその代金の請求を許されるべきものでないと信ずる。

(ロ) 然るに原判決によれば昭和二十四年法律第二百十八号改正の法条に刻当せざるも当時の食糧管理法に違反し処罰されるべきものと認定しながら食糧管理法制定の目的に鑑み且つ本件の取引は旧食糧配給公団藷類茨城県事務所がその頃農林省食糧管理局茨城食糧事務所長の指示に基いて控訴人に売渡したものであるから購入通帳の使用の必要なきものと説示したのは本件は何にを根拠として農林省側から被上告人に指示したものであるから購入通帳の必要なきものと断定したのか、その理由を知るに苦しむ。何となれば前記省令によれば購入券の必要なき場合は同令第二十六条(元の十二条)第三項の、二個の場合のみであるのに判示の如き場合は之を除外すべき規定に該当しないからである。依て説示の如き場合にも購入券の必要ないものとせば之が理由を説明しなければならない。又何を根拠として本件は被上告人が農林省茨城食糧事務所長の指示に基づき売渡したるものと認めたるかの理由を付さなくてはならない。所謂判決に理由を付しないものと謂うべく少なくとも理由不備の不法の判決というべきものと信ず。而して之れは判決に影響を及ぼすべき重大なる案件なりと思料する。

(ハ) なお被上告人は口頭弁論終結後昭和三十三年五月十三日提出の上申書によれば本件購入券(乙第二号証)は食糧管理法第八条の四の購入券ではなく食糧管理法施行規則第二十五条によつたものである旨記載しあるも同施行細則なるものは何時発令せられ何時より施行せられたものか。被上告人のいうところによるも官報にて公布せられたものでなく便宜の取扱に過ぎない旨の記載あるが同購入券は昭和二十四年法律第二百十八号の公布以前たる本件取引当時の省令たる食糧管理法施行規則により発行せられたものであることは同購入券の発行年月日によるも明かにして被上告人の上申書記載の如き本件取引の購入券の説明になるべきものでない。況んや官報に公布もしない細則なるものが省令の効力を左右すべきものでないことは多言を要しないものと信ずる。

二、原判決によれば前記のように「本件取引はその売買の成立についての前示認定のとおり旧食糧配給公団藷類茨城県事務所がその頃農林省食糧管理局茨城食糧事務所長の指示に基づいて控訴人に売渡したものであるから本件取引に使用された購入通帳に控訴人主張のような記載事項の脱漏があつたとしても、それのみによつて右の取引を無効とすべきものではないと解するを相当とする」と判示したが、これは該購入券を無効のものと認定したのか或は有効であるとしたのか、或は有効であるが必要でないと認定したのか甚で明瞭を欠く。元来本件の購入券(乙第二号証)には後記のように当時の農林省令に基づき発行されたものでそのもの自体「配給公団印」欄に捺印なきものは無効なることを表明しあり、而してその捺印なきことは一点疑なきもの故無効なることを自白しているものというも差支なく無効のものと認定して判決すべきものと存する。然るに何れなるやを判定せざるは理由不備の判決と称する外ないと思料する。

第二点原判決は口頭弁論に基づかずして為したる不法あり。

一、原判決に摘示されるように上告人が本件の購入券(乙第二号証)の無効のものなることの抗弁は第一審に於て提出せず原審に於て初めて顕われたもので、即ち控訴人の昭和三十一年十月十五日付第二準備書面(記録三七九丁以下)、昭和三十二年六月三日付第三準備書面((記録四三一丁)に記載しなお昭和三十三年五月八日最終の口頭弁論調書にも明かにその旨記載されあるところ又被上告人の之に対する主張は、矢張り右最終の弁論調書に「本件売買は食糧庁茨城県食糧事務所の割当により配給したもので購入券とか購入通帳は必要としないものである」とあるにより明かである。上告人は第一審以来該購入券(乙第二号証)を提出し取引の年月日、数量等を立証し被上告人も第一審に於てはその成立を認め居たものであるが、原審に於て上告人が該購入券の無効を主張したため更に乙第二号証の全文(記録三八二丁)を謄写して提出したもので被上告人はその成立を認め且つ原審に於てもその無効なることについては何異議なかつたもので唯本件の取引には使用の必要がなかつた旨に変更主張するに至つた次第であるが上告人は固より否認するところ、被上告人はその主張に対し何等立証するところなく同口頭弁論は終結したものである。然るに該乙第二号証を見ればその写のとおり外部の表面には藷類澱粉購入通帳昭和二十三年八月一日発行とありの右側にEEEEE左側にEEEEEと印刷し食糧配給公団藷類澱粉支局の赤印押捺しあり、横に受配者住所氏名と印刷しその右方に筑波郡大穂村大穂澱粉工場と筆書し品名生甘藷、用途澱粉用、割当量7千貫、変更割当量、割当変更年月日欄には何等の記入なく食糧配給公団印と印刷しある所にはその旨の赤印と、小さき(井上)なる認印あり又外部の裏面には注意事項として1、この通帳は食糧配給公団から業務用藷類又は澱粉の配給を受けるために発行されるものでこの通帳がなければ配給を受けられません、2、業務用藷類又は澱粉の割当があつてその配給を受ける場合はこの通帳を藷類澱粉都道府県事務所(支局)に呈示して配給数量の記入及びなつ印を受けます、3、この通帳は政府又は食糧配給公団藷類局又は澱粉局が要求した場合は何時でもこれを呈示しなければなりません、4、この通帳は失つても原則としては再交付しません、5、この通帳に所管の印のないものは無効です、とあり、又内部面には、月日、品名、荷姿及び単位重量、数量個数、重量、等級、単価、金額、公団印の八欄あり十一月十八日、同日、十二月十二日、十二月二十日の四回夫々各欄に数量等記入あるが公団の欄には何等の捺印がない。而してこの通帳は又被上告人に於ても成立を認めおるものであるが、同証自体に記載されあるように無効であり、従つて売買は不成立と謂わねばならぬものと存ずる。然るに原判決は何を根拠としたものか「旧食糧配給公団藷類茨城県事務所がその頃農林省食糧管理局茨城食糧事務所長の指示に基いて控訴人に売渡したものであるから本件取引に使用された購入通帳に控訴人主張のような記載事項の脱漏あつたとしてもそれのみにて右の取引を無効とすべきものでないと解する」と説示したるは甚だ不可解である。若し夫れ原判決の通りとせば食糧配給公団は設立当初の食糧管理法第十四条の規定に従い「農林大臣ノ定ムル実施計画に従ヒ主要食糧ノ適正ナル配給ヲ行フコトヲ目的」として設立したものでありその配給による売渡は総て農林省食糧管理局(本件は茨城食糧事務所)の指示に基いて売渡すもの故購入通帳の必要なきに至るべく、而もその斯く認定したることにつき何等の証拠等を示さない不法がある。なお詳細に原判決を閲読するに只裁判所の認定判断は売買契約の成立及び取引数量の点について「当審での控訴人本人訊問の結果中原審認定に反する部分は信用できず他に右認定を覆すに足る証拠はない。と附加する外原判決理由(中略)摘示と同一である」旨記載あるのみにて前記茨城食糧事務所長の指示に基づいた取引であるとの点につき特別の証拠的説明はない。蓋し配給公団が澱粉工場への生甘藷は前記のように当時の食糧管理法第十四条、第二十八条等により総て農林省側の指示に基づき売渡すべきもので当時の法令により購入券の必要あり只その例外は前記同法施行規則第二十六条第三項の場合である。その後の昭和廿四年法律第二一八号改正同法第八条ノ四第三項により「前二項ノ規定ハ災害ニ因リ已ムヲ得サル場合其ノ他農林大臣ノ指定スル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ」とあるにつき或は原判決は本件取引後の改正たる昭和二十四年法律第二一八号の法文に依りたるものにてはなかるべきや、上告人は右条文以外、特に農林大臣の指定する場合に購入券の要なきものとした旨の規定あると見す。それにしても果して農林大臣の指示によりたるものとせばその事実に対し之を認めた証拠を示さなければ是れ唯一片の被上告人の口頭陳述によりたるのみで所謂証拠によつて事実を認定すべき訴訟法第百八十五条に反する不法がある。

二、本件は一件記録に依り明かなる通り口頭弁論は昭和三十三年五月八日終結して同月三十一日を判決言渡期日と指定せられたるが職権により職権によりその五月三十一日は六月十七日に変更せられ弁論の再開もなく同日言渡されたものなるがその後上告人(代理人)は記録閲覧したるところ被上告人は右口頭弁論終結後の同年五月十三日、五月二十六日及び六月十三日の三回上申書と題して事実的、証拠的に関する詳細なる陳述書を提出し、殊に六月十三日の数葉に亘る上申書に添付し参考として浩瀚なる書類(連合軍最高司令長官の指示、内閣訓令、次官会議決定、経済安定本部の訓令又は指示或は食量配給公団藷類局部長の指示其の他の訓令等官報にも一般公布もしない内部関係の書類其他の法律等を撮影したるもの)を提出したことを覚知したるが之がため口頭弁論を再開して之を上告人に示されたることなきは勿論、上告人は斯かる書類の提出をも知らずに判決を言渡された次第に有之固より判決の理由中是等書類に依りたる旨の記載なくこれを心証の資料に供したるや否やは測り知るところもないが民事訴訟法上適法に斯かる参考的上申書及びその資料等の提出を許さるべきものでしようか、上告人は甚だ疑問なきを得ない。若しそれ斯かる事実的、証拠的書類(殊に一般に公表しない訓令又は指示等をも含む書類)を裁判所へ提出するならば堂々口頭弁論を再開したる上所見を披れきすべきではないか。斯かることが民事訴訟法第百八十五条の所謂口頭弁論の全へ趣旨中に包含されるものとせば口頭弁論なる制度は無視され甚だ危慎を感ぜざるを得ない。若しも直接証拠として採用せられなくとも万一裁判所の心証を形成する内面的の一資料に供せられるに於ては明かに訴訟法上の違反というべきものと思料するものである。

上告人は矢張り裁判所の心証如何に関せず斯かる口頭弁論以前に参考的陳述は訴訟法上不法なることを確信し原判決を破毀するよう適正なる御審理と御判決を求めるものであります。

第三点原判決は法の適用を誤つた不法あり。

原判決によれば前記理由書中にも摘示したように「本件取引は食糧配給公団茨城県事務所かその頃農林省食糧管理局茨城食糧事務所長の指示に基いて控訴人に売渡したものであるから購入通帳の必要にきもの」と説示し、換言すれば普通ならば購入通帳(購入券と称す)使用の必要あるも本件取引は農林省が被上告人に指示して上告人に生甘藷を売渡したもの故購入券の必要ないものと認定したことは明かである。しかし原審は如何なる証拠により如何なる理由あつて被上告人が農林省側の指示により売渡したものと認定したるや、更らにその事由の説示がない不法のある外如何なる法令に基き購入券使用の要なきものとしたかその法令の説示もない。思うに食糧管理法第八条ノ四第三項に「前二項ノ規定ハ災害ニ因リ巳ムヲ得サル場合其他農林大臣ノ指定スル場合ニ於テハ之ヲ適用セス」とあるを以てこの後者に依り購入券の必要がないものと認定したるものなるべきも此の法文は昭和二十四年六月二十五日公布法律第二百十八号により前記のように規定されるものでその以前の食糧管理法には斯る規定なく農林省令の食糧管理法施行規則に依る外なく、即ち取引当時は昭和二十二年十二月三十日農林省令第百三号食糧管理法施行規則第十二条第三項(昭和二十三年四月十七日農林省令第三十四号により第十一条以下を第二十五条以下とし順次繰り下げ第二十六条第三項となる)により「一、食糧配給公団カ連合国駐屯軍ニ対シ連合軍司令官ノ発行スル調達要求書ニヨリ売渡ス場合、二、天災事変ニヨリ已ムコト得サル場合」でなければ必ず購入券を要すべく単に「農林大臣の指示により売渡す場合に之を要しない」などゝとい規定は更らにない。従つてたとえ原判決が本件取引(昭和二十三年十月乃至十二月中)を何等証拠に基かずして農林大臣の指示により売渡したものと認定したとしても食糧管理法第八条ノ四第三項を適用し購入券、使用の必要なきものとしたのは法律の適用を誤りたる不法の判決なることは明かで破毀せらるべきものと思料する。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例